PID制御は様々な自動制御において、広く使われている制御方式になります。
PID制御はシンプルながら多くの制御対象に適用でき、パラメータを適切に調整すれば優れた性能を発揮します。
しかし、この「パラメータの適切な調整」こそが多くのエンジニアを悩ませる課題となっています。
この記事ではPID制御のパラメータ調整に焦点を当て、パラメータ調整の考え方やシミュレーターについて解説します。
PID制御のパラメータ調整方法:シミュレーションを活用しよう

PID制御は、比例(Proportional)・積分(Integral)・微分(Derivative)の3つの制御動作を組み合わせた制御方式です。
そしてPID制御は以下の数式から成り立ちます。
MV = Kp・(e+1/Ti*∮edt+TD*de/dt)
- MV:操作量 [%]
- e(t):偏差 =目標値ー測定値
- Kp:比例ゲイン [%]
- Ti:積分時間 [s]
- TD:微分時間 [s]
この数式のKp(P)、Ti(I)、TD(D)の値を調整することがPID制御のパラメータを調整するということであり、制御対象にマッチした制御特性を作り出す作業になります。
PID制御の基礎について不安な方は事前知識として【初心者必見】PID制御とは? 基礎から応用まで分かりやすく解説をご覧ください。
PIDパラメータ調整のステップ

PIDのパラメータを調整するには、まずは制御対象の特性を理解する必要があります。
ここでいう制御対象の特性とは、以下のことを指します。(あくまで一例です。)
1.制御対象の負荷変動はどのくらい許容できるか
2.制御対象の負荷変動は不規則に急激に増加減するか
3.制御対象への応答速度はどのくらい求められるものか
また、制御対象の特性に加えて、Kp(P)、Ti(I)、TD(D)のパラメータがどのように制御出力に影響を与えるか理解しておく必要があります。
以下はKp(P)、Ti(I)、TD(D)の役割と制御出力に与える影響になります。
- 現在の偏差に比例した制御出力を生成
- Kpの値が小さいほど比例ゲインが大きくなり、応答が速くなるが、オーバーシュートも増加
- Kpのみの制御では定常偏差(オフセット)が残る場合がある
- 過去の偏差を積分し、定常偏差を解消
- Tiが小さいほど積分効果が強くなり、定常偏差の解消が早くなるが、ハンチングしやすくなる
- 偏差の変化率に応じた制御出力を生成
- Tdが大きいほど微分効果が強くなり、急激な変化に対する応答が改善されるが、ノイズに敏感になる
このように制御対象の特性と各パラメータが与える制御出力への影響を理解し、パラメータを設定していく必要があります。
PID制御のパラメータ調整は、まさに制御性能を左右する重要な工程です。
調整が適切でなければ、オーバーシュートの発生、安定までの時間の遅延、さらには制御系の不安定化を招くことがあることを理解しておきましょう。
パラメータ調整に役立つシミュレーションツール
PIDのパラメータ調整は、実際にKp(P)、Ti(I)、TD(D)の値を変更し動作確認をしながら微調整していくことが一般的です。
また、効率的な調整方法として事前にシミュレーションツールを活用して、ある程度パラメータ値に検討をつけておく方法もあります。
温度制御限定ではありますがRKC理科工業の制御シミュレーターが非常に便利なので紹介します。
温度制御以外でも、参考になるシミュレーターですのでぜひ活用してください。
パラメータ調整による効果の違い(P、I、Dの調整)
最後に各パラメータの調整が制御性能にどのような影響を与えるか、理解を深めましょう。
比例帯(P)の調整
比例帯Pを小さくする(比例ゲインを上げる)と:
- 応答速度が向上する
- オーバーシュートが大きくなる
- ハンチングしやすくなる
比例帯Pを大きくする(比例ゲインを下げる)と:
- 応答が遅くなる
- 定常偏差が大きくなる
- 安定性が向上する
積分時間(Ti)の調整
積分時間Tiを小さくすると:
- 定常偏差の解消が早くなる
- ハンチングしやすくなる
- オーバーシュートが増加する
積分時間Tiを大きくすると:
- 定常偏差の解消が遅くなる
- 安定性が向上する
微分時間(TD)の調整
微分時間Tdを大きくすると:
- 急激な変化への応答が改善される
- オーバーシュートが減少する
- ノイズに敏感になる
微分時間Tdを小さくすると:
- 微分動作の効果が減少する
- 制御が滑らかになる
まとめ
PID制御のパラメータ調整は、理論と実践の両面からアプローチすることで効率的に実施できます。特にシミュレーションツールを活用することで、安全かつ迅速に最適なパラメータを見つけることが可能になります。
効果的なPID制御を実現するためのステップをまとめると:
- 制御対象の特性を理解する
- シミュレーターを使って初期パラメータを導出する
- 実際の応答を観察しながら微調整を行う
- 外乱や負荷変動に対する応答性を確認する
PIDパラメータは「完璧な値」が一つあるわけではなく、制御対象の特性や求められる性能によって最適値が変わります。
そのため、理論的知識と実践的経験の両方を積み重ねることが、優れた制御を構築する鍵となります。
この記事を通じてPIDパラメータ調整の役に立てれば幸いです。