近年、快適な室内環境をつくることは、住宅や職場、公共施設などあらゆる空間で求められています。
その中で「個別空調方式」と呼ばれる空調システムは非常に注目されています。この記事では、個別空調方式の仕組みと基本知識、そのメリット・デメリット、更に最新の冷媒事情や今後の展望まで、総合的にわかりやすく解説していきます。
個別空調方式とは?概要と基本知識
まず個別空調方式がどのようなものか、その概要や基本的な特徴について理解しましょう。
個別空調方式の定義
個別空調方式とは、特定の部屋やスペースごとに空調機(エアコン)を設置・運用し、個別に室内環境を制御するシステムです。たとえば、オフィスで会議室と執務スペースの温度設定を分けたり、病院で患者部屋ごとに快適な環境を整えたりできるのが特徴です。
個別空調方式の拡がる利用範囲
従来は一般住宅や中小規模の店舗が中心でしたが、技術の進歩により、大規模オフィス、複合商業施設、医療機関、学校など、さまざまな分野で採用例が増加しています。
個別空調の仕組みを図解で理解

個別空調方式がどのようにして部屋ごと制御を実現できるのか、具体的な仕組みについて掘り下げます。
構成要素
- 室内機(エアハンドリングユニット):部屋ごとに設置。送風ファン、熱交換器、制御基板などを搭載し、室内の空気を快適に調整。
- 室外機:主に建物の外部に設置。圧縮機、熱交換器、送風ファンなどを持ち、室外の空気と熱交換を行い、冷媒を循環させる役目を担う。
- 冷媒配管:室内機と室外機の間を冷媒ガス(R32など)が循環し、空気の冷却や加熱を実現。
仕組みのポイント
各部屋の室内機は、それぞれ独立して温度や運転モードを制御可能にしています。使用しない部屋の空調は停止でき、部屋ごとの快適さを最大化できます。また、省エネルギー運転が可能で、細やかな環境制御を求める現代社会に適しています。
代表的な個別空調方式のタイプと特徴
個別空調方式に分類があります。ここでは個別空調方式の種類について解説していきたいと思います。
パッケージエアコン方式
- 構成:室内機と室外機が1対1で接続
- 特徴:設置が比較的簡単かつ初期投資も手ごろ。小規模なオフィスや店舗に最適。
ビル用マルチエアコン(VRF方式/マルチタイプ)
- 構成:1台の室外機に複数の室内機が接続可能
- 特徴:大規模施設やオフィスビルで多用。各室の個別制御が可能で、空間規模やレイアウトの変更にも対応しやすい。
その他の方式
- 家庭用ルームエアコン:家庭の各部屋や小規模施設用。
- 天井カセット形や壁掛け形:設置場所や用途によって機種選定が可能。
個別空調方式のメリットとデメリットを徹底比較
個別空調方式はセントラル空調方式とよく比較されます。ここでは個別空調方式の「メリット」と「デメリット」をまとめています。
メリット
- 高い省エネ性:必要な部屋だけ運転でき、無駄なエネルギー消費を防止
- 快適性の向上:使用者ごと・部屋ごとに温度設定可能。個々のニーズに細かく対応
- 低い初期コスト:セントラル空調方式と比べて、配管やダクトが少なく、設備投資負担が軽減
- 柔軟な運用:スペースのレイアウト変更や増改築にも対応しやすい
デメリット
- メンテナンスコスト:各室ごとに冷媒配管や室内機が必要なため、故障時の対応や部品管理が煩雑
- 運用効率:全館一斉稼働が必要なケースではセントラル空調より効率が落ちることも
- 法律面の対応:日本ではフロン排出抑制法により、冷媒の点検・漏えい対策が厳格化、定期点検および記録保管が義務付けられています
セントラル空調と個別空調の違いについて知りたい方はこちら→個別空調とセントラル空調の違い:それぞれのメリット・デメリット
環境に配慮した最新冷媒「R32」と個別空調の関係

個別空調方式では冷媒と呼ばれるガスを用いて、空気を冷やしたり、暖めたりしています。
この個別空調に使われる冷媒にも地球環境へ配慮した最新技術が反映されています。
ここでは冷媒R32を中心とした現状と今後の流れにスポットを当てます。
冷媒の歴史的変遷
従来の冷媒(CFC・HCFC)はオゾン層破壊や温暖化への影響が問題視され、環境規制が強化されています。オゾン層を破壊しないHFC冷媒(R410A)が普及しましたが、近年はさらに温暖化係数(GWP)の低い「R32」への置き換えが進行中です。
R32の特徴
- 環境負荷の低減:GWP(地球温暖化係数)はR410Aの約1/3、オゾン破壊係数はゼロ
- 冷房・暖房能力の高さ:エネルギー効率が高く、空調の省エネ化に貢献
- 普及状況:ダイキン工業の主導により国内外で採用が拡大中
今後さらに強化される規制への対応
欧州や先進国を中心にHFC冷媒への規制強化が進み、新興国も含めてR32など低GWP冷媒への移行が加速しています。個別空調システムにおいても、今後は非常に重要な視点となるでしょう。
さらに詳しくR32冷媒について知りたい方はこちら→冷媒R32とは?その特徴と規制を徹底解説
個別空調方式の導入ポイントと選び方・今後の展望
実際に個別空調方式を導入検討する際、どのような点に注意し、どんなトレンドが生まれているのかをまとめます。
導入時のポイント
- 建物規模と用途:小規模ならパッケージ型、大規模ならビル用マルチ型が向く
- 将来的な拡張性:レイアウト変更や増設のしやすさ
- 省エネ性能・コスト:運用コストや初期投資とのバランス
- メンテナンス性と法規制対応:法的点検義務を意識し保守体制を整える
進化する個別空調とIOT・AI
近年はIoT技術による遠隔監視、AIによる最適制御によって、さらなる省エネ性・運用効率化・快適性の向上が実現しつつあります。利用データの蓄積による予知保全や自動制御など、新たな付加価値も生まれています。
まとめ:個別空調方式の今と未来
ここまで個別空調方式について総合的に解説してきました。快適性、省エネ性、柔軟性に優れる個別空調は、今後も多様化するユーザーのニーズに応える主流空調方式となるでしょう。
また、最新冷媒「R32」や、AI・IoTと融合した新しい空調システムによって、さらなる省エネルギー性の追求と、ユーザー・管理者双方の利便性向上が期待されます。