BACnet通信仕様とは?MS/TP・IPの違いと選び方

BACnet/IP,MS/TPのロゴ

ビルや工場など多くの設備で導入が進むBACnet(バックネット)は、空調制御・照明・セキュリティをはじめとする設備の自動制御に欠かせない国際標準通信プロトコルです。


この記事では、BACnetの通信仕様を「MS/TP」と「IP」という2大方式を中心に整理し、配線や速度・用途の違いを現場目線で詳しく解説します。


初めてBACnet導入を検討する設計者・エンジニア・システム担当者やBACnet初学者に向けて、BACnetの通信方式を徹底的にガイドします。

BACnetの通信規格一覧と概要

このセクションでは、BACnetで採用される主な通信仕様を表や図を交えて一覧で紹介します。

BACnetには複数の通信仕様・通信線が用意されており、用途や設計条件に応じて使い分けられています。

方式物理層最大速度配線形態主な用途
MS/TPRS-4859.6kbps~115.2kbps2芯+GND機器間制御・下位ネットワーク
BACnet/IPイーサネット10/100/1000MbpsLAN配線ビル全体・上位監視/集中制御
Ethernetイーサネット10/100MbpsLAN配線廃止傾向(現行はIP方式が主流)
Point-to-Point (PTP)RS-232最大56kbpsシリアル直結点対点機器・古い制御機器
ARCNETRG-62同軸等156kbpsバス配線古いビル管理(新規導入は稀)

※現在の主流は「MS/TP」「BACnet/IP」の2方式です。

azbilのBACnet/IP,MS/TPシステム構成

階層構成例:BACnet/IP(上位基幹/LAN)― ゲートウェイ/ルーター ― MS/TP(末端機器/配線省力化)

MS/TPとは?配線・ケーブル・伝送速度etc

BACnet/MS/TP

この章では、BACnetの代表的な下位フィールド通信「MS/TP」について、その仕組みや配線・機器接続の留意点を具体的に解説します。

MS/TPとは

「Master-Slave/Token Passing(MS/TP)」はRS-485物理層を利用したシリアル通信方式で、トークンパッシングによる確実なデータ送受信・機器制御が可能です。

配線仕様と主な特徴

  • 配線方式
     2芯ツイストペア(+シールド推奨)+ グランドで構成。1セグメントで最大1200m、32デバイスまで接続可能。
  • 速度
     9,600bps ~ 115,200bps(機器の仕様に依存。一般的に38,400bps付近が多い)
  • トポロジ
     基本はデイジーチェーン(バス配線)。スター配線はトラブルの元なので非推奨。
  • 特徴
     信頼性が高く、実装コストも低い。通信規模が小さなエリアや機器間制御に最適。

MS/TPの長所・短所

  • 長所
     ・シンプルで安価
     ・細長い建屋や複数機器制御に強い
     ・小規模・中規模の設備向き
  • 短所
     ・速度が遅い(大量データや遠隔制御に不向き)
     ・配線距離や機器数に制限あり

BACnet IPとの違い・選定ポイント

BACnet/IP

このセクションでは、MS/TPとBACnet/IPの違いを整理し、使い分け・選定のコツを表で比較しながら説明します。

BACnet/IPの特徴

  • イーサネット(LAN)上で動作し、TCP/IPプロトコルを利用
  • 通信速度は10/100/1000Mbps(実質的に「高速」)
  • 大規模建物の基幹通信・中央監視サーバー連携に最適
  • ネットワークセグメントごとにルータやスイッチで拡張自由

MS/TPとの比較表

項目BACnet MS/TPBACnet/IP
物理層RS-485イーサネット
通信速度~115kbps~1000Mbps(=1Gbps)
配線形態2芯ツイストペア+GNDLANケーブル(Cat5e以上推奨)
範囲・用途機器間/小~中規模ビル全体/上位集中制御/遠隔対応
可用性約32台/1セグメント機器数無制限(設計次第で拡張可)
費用感低コスト中~高コスト

選定ポイントまとめ

  • MS/TPが向く場合
     → 機器台数が少なく、配線長や新規配線コスト優先、現場設置型の分散制御に
  • BACnet/IPが向く場合
     → 大規模ビルや中央監視システム、ネットワーク統合や遠隔操作、高速性・拡張性を重視する場合

一般的には「現場末端:MS/TP」「基幹・サーバ連携:IP」併用型が多く、両者をブリッジするルータ機器も流通しています。

代表的な対応メーカー(三菱電機等)

本章では、信頼性の高いBACnet対応機器を提供している国内外主要メーカーについて解説します。
メーカーの選択肢を知ることで、構成検討や相互接続性の問題を予防できます。

  • 三菱電機 … ローカル空調・BEMS向けコントローラ、LHMシリーズ(MS/TP/IP)
  • Azbil… ローカル空調・BEMS向けコントローラ、中央監視装置
  • パナソニック … ビルマルチ空調・集中管理
  • ダイキン工業 … BACnet対応の空調制御システム
  • 東芝キヤリア … モジュール型BEMSコントローラ
  • シーメンス/ジョンソンコントロールズ/ハネウェル… 海外大手によるビルオートメーション機器

多くの最新機器はMS/TPとIPの両対応モデルをラインナップ。混在構成も柔軟に対応できる製品が増えています。ただし、旧型機ではIP非対応の場合があるため注意が必要です。

運用上の注意点・トラブル事例

このセクションでは、現場でよく発生するMS/TP・IP通信のトラブルや注意点を、事例を交えながら紹介します。

MS/TPトラブル例と対策

  • 線番間違い・グランド断線
     → 正極性/終端抵抗を必ず確認。スター配線やバス接続誤りは通信障害の元。
  • 機器アドレス重複
     → 複数機器で同一アドレス設定時、ネットワーク全体が不安定になる。
  • 速度不一致
     → すべての機器で通信速度設定を統一しないと正常応答しない。

BACnet/IPトラブル例

  • IPアドレス重複・セグメント分離エラー
     → DHCP使用禁止で静的割当、セグメント間のルーティング設計を慎重に。
  • ファイアウォール・VLAN設定不適合
     → BACnet/IP通信ポート(UDP:47808等)の閉塞やブロードキャスト制限に留意。

運用のポイント

  • 現場では必ず配線図・ネットワークマップを残す
  • 機器更新・追加時は事前のアドレス設計必須
  • シミュレーションツールや試運転機能活用で初期不良を速やかに発見

まとめ:ユーザー目線でBACnet通信仕様を賢く選ぶ

BACnetの通信方式(MS/TP・IP)は、用途・規模・コストで正しく選定することが、ビル/工場の省エネ・安定運用のカギです。


特に現場環境や運用体制をふまえ、配線計画やメーカー選定、トラブル対策もセットで検討しましょう。


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