個別空調とセントラル空調の違い:メリット・デメリットを徹底比較

個別空調(パッケージ)とセントラル空調の違い

オフィスや店舗の快適性を大きく左右するのが空調であり、対象となる空間のニーズに応えるために重要なのが「空調方式」です。空調方式の選定には建物の規模や用途、導入・運用のコスト面など複数の要素が関係します。

この記事では、代表的な2つの空調方式「個別空調(パッケージ空調)」と「セントラル空調」の仕組みと特徴、メリット・デメリット、選定のポイントまで幅広く解説します。

空調方式の基礎知識〜個別空調とは?

個別空調の室内機と室外機

まずは、小規模な店舗から中規模オフィスビルまで広く導入されている個別空調方式(パッケージ空調)について、その仕組みや構成、利用シーンを解説します。

個別空調方式の定義と仕組み

個別空調方式とは、部屋やゾーンごとに独立してエアコン(空調ユニット)を設置して、室内の温度を制御する空調方式です。各部屋に対して室内機・室外機のセットを設置し、冷媒配管でつなぐ構成が基本となります。空気を冷やす冷媒はガス(主流はR32やR410A)が用いられ、冷暖房を効率よく行います。

主な利用場所

  • 小規模オフィスや店舗
  • クリニック・小規模医療施設
  • 学習塾や飲食店など、独立した空間制御が必要な場所

個別空調方式の基本について詳しく知りたい方はこちら→個別空調方式とは?仕組みと基本知識をわかりやすく徹底解説

個別空調のメリット・デメリット

個別空調方式は導入や運用の柔軟性が高い一方、管理コストなどの課題もあります。ここでは個別空調方式の具体的な長所・短所を見ていきましょう。

メリット

  • 温度調整の自由度が高い:部屋単位で独立して温度や運転モードを設定可能。多様な利用者の好みに応える空間づくりができます。
  • 導入の手軽さ:配管やダクト工事が比較的少なく、建物への大きな改修なく導入できるため、リニューアル時やテナント入れ替え時も短期間で対応可能です。
  • 初期コストが安価:小規模エリアでは初期投資が抑えられるため、コストパフォーマンスに優れます。

デメリット

  • メンテナンスの繁雑性:部屋ごとに複数台のエアコンが稼働するため、点検や修理などの管理業務が増加。フロンガス冷媒使用機器は法律上の定期点検義務も発生します。
  • 長期ランニングコストの増加:全体で見れば個別にエネルギー消費を行うため、思わぬ電気代増加となることも。特に同時多発的な利用が多い場合、注意が必要です。
  • 冷媒漏えいリスクと法対応:フロン排出抑制法に基づく点検・記録義務がかかり、管理コストや事務負担が発生します。

セントラル空調方式とは?その仕組みを解説

セントラル空調機の外観

個別空調方式について理解したところで次に、大規模な建物で主流のセントラル空調について、システム構成や特徴、その強みと弱点を整理します。

セントラル空調方式の定義と構成

セントラル空調方式は、ビルや大型施設などのオフィスやホールなどの大空間を対象に、1台の大型空調機(エアハンドリングユニット)がダクトを介して各部屋に空気を供給する方式です。一元的な空調制御で大規模な空間全体を空調できるのが特徴です。

冷媒には主にチラー(冷凍機)で作り出された水(冷水/温水)を使用するのが一般的です。各部屋への空気供給はVAV(可変風量制御装置)やダンパなどで行います。CO2濃度センサや温度センサなどを活用した高度な空調制御も可能となります。

VAV(可変風量制御装置)について詳しく知りたい方はこちら→VAV空調とは何?仕組み・読み方・略語まで初心者向けに徹底解説

主な利用場所

  • 大規模オフィスビルや大型商業施設
  • 病院や学校、図書館など公共的な大型建物

セントラル空調のメリット・デメリット

セントラル空調方式の基礎について理解したところで、そのメリット・デメリットを整理し、どんな場面で最適化を考えるべきかを解説します。

メリット

  • 高度な一括制御が可能:センサーや中央制御装置で、空間ごとの温度ムラなく全館の空調を最適化できるため、省エネ運用がしやすい。
  • メンテナンスがシンプル:水系冷媒の採用が一般的なため、フロン排出抑制法の制約を受けず、管理が比較的容易です。
  • 長期運用で優位性:建物の一体運用に向き、全体コストやエネルギー効率の最適化につながりやすい。

デメリット

  • 初期投資と設計制約が大きい:建物設計時に空調システム仕様を決める必要があり、後からのレイアウト変更や増設が困難。
  • 個室ごとの細やかな空調調整は不得意:個別制御自体は可能でも、個別空調に比べ柔軟性・手軽さで劣る面があります。
  • 一括故障リスク:中枢機器が故障すると管轄する大空間すべてが影響を受けやすい。

個別空調・セントラル空調の違いを徹底比較

ここまで「個別空調方式」と「セントラル空調方式」の仕組みやメリット・デメリットについて解説してきました。ここからは具体的に両方式で何がどう違うのか、主要な比較軸にそって違いを解説します。

部屋ごとの制御性

  • 個別空調:各部屋単位で柔軟なコントロールが可能。リノベや用途変更にも柔軟に対応。
  • セントラル空調:全館統一での管理がしやすいが、居住者ごとの細かな設定や臨機応変な対応はやや不得意。

使用冷媒とエコ対応

  • 個別空調:ガス冷媒(主にR32等)。フロン類は環境負荷が問題になりやすいが、最新機種のエアコンは省エネ性も重視されている。
  • セントラル空調:主に水や温水等の冷媒を採用。環境負荷規制の対象になりにくく環境への配慮がしやすい。

運用・保守コスト

  • 個別空調:初期投資は小さく済むが、保守やフロン規制にともなう維持コスト増加に注意が必要。
  • セントラル空調:維持管理は一括しやすい一方、大規模修繕時などに高額コスト化しやすい。

故障時のリスク

  • 個別空調:一部故障時はそのエアコンユニットだけで済む
  • セントラル空調:ベースユニットのダウン=広範囲にわたる影響

空調方式選定の実務ポイントと今後の傾向

最後にこれから新築やリニューアルを検討している事業者の方に向けに方式選定のポイントや最新の空調方式トレンドについてまとめます。

方式選定ポイント

  • 建物規模と用途:小〜中規模やレイアウト変更が多いなら個別空調、大規模一括管理の必要があるならセントラル空調
  • 環境規制の動向:将来的な法対応と運用コストの見積もりが重要
  • エネルギー効率・サステナビリティ:中長期的な省エネ化、CO₂削減にも目を向ける

今後の進化

近年IoTやAIによるビルオートメーション技術の進化が加速しています。徹底したデータ活用により、室内環境の最適化、省エネ運用といった付加価値向上の時代となっています。今後も法規制・環境要請とテクノロジーの両面から空調方式の選定基準が進化していくでしょう。

まとめ 〜空調方式選定は快適性+コスト+未来志向で

オフィスや店舗における空調方式の選定は、快適性や運用コスト、将来の拡張性・法規制対応といった総合的な視点が不可欠です。「個別空調」と「セントラル空調」、それぞれの特徴やメリット・デメリットを踏まえ、最善の選択を目指してください。

空調方式ごとの理解が深まると、建物やビジネスのなかで“賢い運用・省エネ”のヒントも見つかるはずです。

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